『いわてのZINE Acil』いわてのジン アシル編集人日記

岩手を中心に食・農・手仕事・場づくりなどについて取材した【いわてのZINE Acil】を発行しています。他においしいもの情報、本や映画の感想など。

戦時下のロンドンを舞台に、トラウマからの旅立ちを描く~マシュー・ボーン IN CINEMA シンデレラ

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盛岡中劇でマシュー・ボーンの「シンデレラ」を見てきました。




マシュー・ボーン IN CINEMA シンデレラ
(2017年/イギリス)

演出・振付:マシュー・ボーン
舞台・衣装デザイン:レズ・ブラザーストン
照明:ニール・オースティン
サウンドデザイナー:ポール・グルースイス
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

シンデレラ:アシュリー・ショー
パイロット:アンドリュー・モナガン
継母:ミケラ・メアッツァ
天使:リアム・ムーア
父親:アラン・ヴィンセント
マシュー・ボーン IN CINEMA シンデレラ 公式サイト



古典バレエの新解釈などで高く評価される
イギリスの舞台演出家、振付家のマシュー・ボーン。
彼が手掛け喝采を浴びた2017年のロンドン公演を収録したものです。

マシュー・ボーンはダンスを始めたのは22歳と遅かったのですが
ダンス学校を卒業後に、コンテンポラリーダンスカンパニー
「アドヴェンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ(AMP)」を結成。

1995年に初演のAMPの「白鳥の湖」は日本でも大ヒットしました。
マシュー・ボーン版では、古典作品でバレリーナが踊るはずの白鳥を
男性が踊っているのです。

私はこの「白鳥の湖」は映像でしか観たことがないのですが
白鳥と王子、王妃を中心に登場人物が絞られていて、ダンス・バレエというよりは
濃密な演劇を観ているような気分でした。
オリジナルキャストで白鳥を演じたアダム・クーパーには
いまだに妖艶な白鳥のイメージがあります。
元東京バレエ団の首藤康之さんは白鳥と王子の2役を演じた経験のある
唯一のダンサーですが、彼も中性的な雰囲気を纏っています。


世界的に知られる童話「シンデレラ」は
バレエの世界ではプロコフィエフ作曲のものが有名で
初演は1945年モスクワのボリショイ劇場。

バレエの「シンデレラ」にはさまざまなバージョンがありますが
どれも物語はハッピーエンドの童話をベースにしています。


さて、今回の「シンデレラ」。

音楽こそプロコフィエフですが
なんと物語の舞台は第二次世界大戦下のロンドンとなっています。

古典バレエの「シンデレラ」は、有名な童話を元にしているので
結末がはっきりしている→良い意味であまり頭を使わずに
ただただ、プロコフィエフの音楽と美しいダンサーの踊り、
様式美、豪華な装置を観ているだけで満足できます。

家庭環境に恵まれない娘が王子様に見初められて幸せになる、
その魔法のような物語に何の違和感も感じません。

マシュー・ボーン版は、舞台が
1940年のロンドンに設定されているせいか、
不穏な空気が常に流れていて、物語がどう帰着するのか
最後までハラハラし、惹きつけられました。

舞台が小じんまりとしていて、登場人物も少ないのですが
それがかえってリアルというか、
それぞれの心象を分かりやすくしていたと思います。

主役2人はもちろん素敵ですが、一番印象に残ったのは
継母役のミケラ・メアッツァさん。
とても美人で手足が長いのですが
底意地の悪さが全身から滲み出ていました 笑。
他の役をどう踊るのか興味があります。



物語のポイントは、
主役2人を隔てるものが身分の差ではなくて戦争だということ。

シンデレラは童話に近い設定で、継母と兄弟姉妹にいじめられていますが
王子はイギリス空軍のパイロットという設定です。

童話でシンデレラと王子が出会うお城の舞踏会は
この版では、町のダンスホールで開かれるパーティーとなっています。

2人はこのパーティーに至る前に運命的に出会い
お互いに惹かれ合います。
戦争のさ中ですが、すでに心が通じています。
そう考えると、戦争がこの後2人を引き裂くのですが
2人を引き合わせたとも考えられます。

では、童話では出会いの場にあたるパーティーは
マシュー版では何のためにあるのかというと
2人が抱える理想と現実のギャップを埋めるためではないかと。

マシュー版では、2人が離れ離れになった後
童話の仙女にあたる天使(男性)が
ドイツ軍の爆撃を受けボロボロになったダンスホールに現れ、
時間を巻き戻し、2人を引き合わせます。
そこで、戦場のトラウマから逃げられないパイロットは国を救った英雄として登場し
家族から虐げられるシンデレラは美しく引く手あまたのレディとして現われます。

運命的な出会いを果たしつつも
戦争によって引き裂かれた2人は
ひと時の夢の世界で、
それぞれが抱え込んだ痛みや望みを共有したのではないでしょうか。

設定がとっぴなので、そこに目を奪われていたのですが
全体を通してみるとパイロットもシンデレラも純粋無垢な存在ではなく
どこか人間くさく、割り切れない部分を持っているように感じます。

この「シンデレラ」は童話のような奇跡というよりも
「戦争に翻弄された、ある一組の男女」の生きづらさを描くことで、
多くの人が自己を投影できる作品になっているのではないかと思います。
天使の導きが物語をひっぱっているのでファンタジックなのですが、
主役2人は前向きではあるものの至って平凡に思えるんですよね。

いろいろと語ってきましたが
実はまだ謎があって。

シンデレラはパーティーに行く途中の爆撃で亡くなっているのではないか?
とか、継母がシンデレラの父親を銃撃したのは現実のこと? 3人の関係は?
継母のシンデレラへの憎悪が古典バレエに比べて過剰に描かれているのはなぜ?
4人の兄弟姉妹は、最後急に良い人になっているけど、
それまでは継母に抑え込まれていただけなのか?
…などなど…

けっこう重要な謎を残したまま、この記事を書いてしまいました 笑。
いろいろ考えさせられる作品です。
映画としてもまた観たいですし、今回見逃しましたが
また来日公演があれば(2018年10月に東京で来日公演がありました)ぜひ足を運びたいです。
※マシュー・ボーンの「白鳥の湖」は2019年7月に東京で公演が予定されています。

最後に良い作品を上演して下さいました盛岡中劇さん、ありがとうございました。
中劇さんのブログでも、この作品が紹介されています。
盛岡中劇オフィシャルブログ

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